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「えーっと……、ここでいいのか？」

　簡単な道筋の書かれたメモとにらめっこをしながら、朝
倉純一は本島の本屋の前に到着する。
#NEXT

「また随分とデカイ本屋だな。商店街の書店とはわけが違
　うぜ」

　一棟が丸々本屋になっているビルを前に純一は嘆息する。
#NEXT

　今日ここでは漫画家の『珠川彩子』こと、恋人の彩珠な
なこの新刊発売イベントが行われる。

　純一はそのイベントでの簡単な会場整理とななこのお世
話を仰せつかっているのだ。
#NEXT

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「あ、朝倉くーん！」

　一足先に会場入りしていたななこが嬉しそうに手を振り
ながら本屋から出てくる。
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「よ、ななこ」

「大丈夫でしたか、朝倉くん。道、迷いませんでした？」

「ああ、ななこの地図のおかげでバッチリだ」
#NEXT

「そうですか、よかった」

　ななこは胸を撫で下ろすようにして微笑む。
#NEXT

「それにしてもななこ、今日は“漫画家さん”なんだな」

「あ、朝倉くんもそう思いますか？」

　苦笑気味にななこは体を捻ってみせる。
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「サイン会に着ていく服がなかなか決まらなくって。資料
　用のを着て来てしまったんですが……」

　胸の前で手を組みながらななこが上目遣いに純一を見る。
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「似合って……ます？」

「ああ、よく似あってると思うぜ」

「ホントですか！」

　ヴェレー帽の乗った頭が嬉しそうに揺れる。
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「それじゃあ、行こうぜ。もうすぐサイン会始まるんだろ
　う？」

「はい、そうですね」

　ふたりは並んでビルに入る。
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「あっ、ちょっと待って」

　エレベーターまで来たところでななこが立ち止まる。

「ん？　どうした？」
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「動かないでくださいね、朝倉くん」

　同じく立ち止まった純一に密着するように身を寄せる。

「お、おい」

　ドギマギとしている純一の頭へとななこの手が伸びてく
る。
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「……寝癖」

「へ？」

　そのまま、ななこの指が優しく純一の髪を梳いていく。
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「うん、これでよし」

　ななこの体がすっと離れる。

「わるい。全然気づかなかったよ」
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「いえいえ、こういうの一度やってみたかったんです」

　どこからかメモ帳を取り出しながらななこが笑う。

「でもダメですよ？　身だしなみには気を使わないと」
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「そうだな。でも、目が充血してるななこには言われたく
　ない」

「それもそうですね」

　ふたりは顔を見合わせて、笑った。
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　しばらくして、いよいよサイン会が始まる。

「こここ、こんにちはっ！」

　ななこがカチカチに強張った笑顔でお客さんに色紙を渡
していく。
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　色紙にはサインと、珠川彩子直筆の簡単なイラストが描
かれている。

　ななこの目が赤かった理由を察しながら、純一は色紙を
受け取ったお客たちを誘導していく。
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　その間も、ななこはお客たちから次々に言葉をかけられ
ている。

「あ、はいっ！　が、がんばります！」

　初めはそれに応えるだけで精一杯だったななこも――
#NEXT

「ありがとうございます。ぜひまた来てくださいね」

　という具合に徐々に笑顔が出るようになってきていた。
#NEXT

「うん、これなら大丈夫だな」

　ななこの様子に一安心した純一は、自分の仕事に戻るた
めに回れ右をすると――
#NEXT

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「調子はどうだ、Ｍｙ同志よ」

　純一の目の前に珍客が立っていた。
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「うお、杉並？！」

「何を驚くことがある。驚くというのは心に隙があるから
　だぞ？」

　休日だというのに制服姿の杉並がかっかと笑う。
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「背後に立たれたら、そりゃ驚くだろ……。ってか何しに
　きたんだよ？」

「ふむ、なにを隠そうこの俺も珠川先生の大ファンでな！」

　どこから出してきたのか、杉並は両手に数冊ずつの単行
本を広げてみせる。
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「単行本なら全巻、それも初版帯付きを所蔵している。
　俺の珠川先生への敬愛はホンモノなのだ！」

　誇らしげに、杉並は胸を張る。

　いったい誰に胸を張っているのだろうか……。
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「まあそれは置いておいて、今日ここへ来たのは長官たっ
　ての希望なのだ」

　そう言って、杉並は足元を見る。
#NEXT

「？　誰だよ」

　純一も視線を下へ。
#NEXT

　そこには珍客に連れられた珍客がいた。

「げ、おまえは……ブリッヂ長官」
#NEXT

　長官――そう呼ばれたヤギにしか見えない生物は下あご
をワシャワシャと動かしながらこちらを、もといその奥の
ななこを見ている。

　その瞳は、悪魔のモデルに相応しい、“獲物（原稿）”
を見るものだった。
#NEXT

「杉並……、サイン会にヤギを連れてくるなよ」

「何を言う、朝倉。長官をそこらのヤギと一緒にするな」
#NEXT

「ひゃううう、ヤ、ヤギ？！」

　『ヤギ』という単語を聞いたななこが反射的に身体をビ
クつかせる。

　その声に反応したのか、ブリッヂ長官はリードを引きち
ぎらんばかりに前傾し、前足の蹄を鳴らしている。
#NEXT

「おい、杉並！　そのリード絶対離すなよ？　今そのヤ
　ギを離したらサイン会が崩壊しかねないからな」

「むむ、だから長官はヤギでは――」
#NEXT

「い、いやああ！　こーなーいーでぇー」

　純一の背後から、今度はななこの悲鳴が。

　ブリッヂ長官の脅威に晒されたななこは今にも会場から
逃げ出しそうだ。
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「あ、おい！　今日はリードに繋がってるから大丈夫だ」

　純一は慌ててななこを引き止めると、今度は杉並に向き
直る。
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「あー……、もうなんでもいいからさっさと色紙を受け取っ
　てくれ。後ろがかったるいことになってる」

　杉並の後ろでは、この騒動を受けて列がだいぶ渋滞を起
こしていた。
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「むう……。よかろう、今日は珠川先生に免じて勘弁して
　やろう」

　そう言って色紙を受け取った杉並はななことややオーバー
に握手をする。
#NEXT

「珠川先生、今日はお会いできて光栄でした。次回作にも
　期待していますぞ！」

「あ、はい、ありがとうございます。でも次はヤギの方
　はご遠慮を……ひっ！」

　色紙を渡しながらも、ブリッヂ長官に睨まれたななこが
小さな悲鳴を上げる
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「さあ、目的は達成しましたぞ、長官。ではご両人、さら
　ばだ！」

　そう言い残すと、杉並と長官は何事もなかったかのよう
に出口に向かって歩き出す。
#NEXT

「お、おう、じゃあな」

　こうして、途中で珍客の来襲があったものの、サイン会
は無事終了した。
#NEXT

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　サイン会が終わった後、ななこはスーツを着た編集部の
人と、お世話役の代わりの店員さんに連れられて奥に引っ
込んでしまった。
#NEXT

　きっと、『珠川先生』としての仕事もあるのだろう。

　そこには恋人といえど付いていけそうもなかったし、邪
魔になるだけだ。

　会場も片付けに入っているので、純一は書店の外で待つ
ことにした。
#NEXT

　「お、きたきた」

　丁度純一が缶コーヒーを１本空けたところで、「お疲れ
様でした」という声に見送られ、珠川彩子としての仕事を
終えたななこが書店から出てくる。
#NEXT

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「お疲れ、ななこ」

　純一は差し入れの缶ジュースをななこに渡す。

「あ、ありがとうございます。丁度のどが渇いてたんです」
#NEXT

　缶ジュースを受け取ったななこが嬉しそうに微笑む。

　書店でもお茶の一杯ぐらい出ただろうに、きっとななこ
は遠慮して手を付けなかったのだろう。
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「それで、今日のサイン会はななこ的にどうだった？」

　ななこが持っていた荷物を引き受けて、純一は聞きそび
れていた感想を聞くことにする。

「はい。普段は漫画を通してですけど、今日は直接感想を
　聞けてよかったです」

　今日の出来事を思い出すように、ななこは胸に手を当て
る。
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「それにモチベーション……というか、『よしやるぞ！』
　って気持ちも湧き上がってきました！」

　ななこはニコニコとしながら力こぶを作ってみせる。
#NEXT

「そっか、そりゃ良かったな。んじゃ、そろそろ帰るとす
　るか」

「はい、そうしましょう」

　ふたりは並んで歩き出し、初音島への帰路についた。
#NEXT

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「だいぶ陽が傾いてますね」

　初音島行きのバスに揺られながら、ななこは隣に座る純
一に笑いかける。
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「そうだな……って、考えてみれば一日中立ちっぱなしだっ
　たのか」

　純一は自分の足を軽く揉んでみる。

　柄にもなく足を使ったせいで少し筋肉が張っている。
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「朝倉くん、良かったら後でマッサージしましょうか？」

「大丈夫、大丈夫。ななこのためなら、俺は翌日の筋肉痛
　なんて苦じゃないぞ？」

「そう、ですか？　遠慮はいりませんよ？」

　ななこは少し残念そうにする。
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「俺より、ななこの方が疲れてるんじゃないのか？」

「え？　そ、そんなことないですよ」

　そう言って、ななこはワタワタと両手を振る。
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「ホントか？　初音島に着くまで寝ててもいいんだぜ？」

　サイン会は休憩を挟んだとはいえ、午前午後の２部構成。

　打ち合わせもあったであろうななこは、きっと朝から忙
しかったはずだ。
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「いえいえ、私は大丈夫です。それに、朝倉くんとお話し
　していたいんです」

　ななこは嬉しそうに純一を覗きこむ。

「あ、でも……――」

　少し考えるように唇に手を当てて、それから意を決した
ように、ななこが口を開く。
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「わ、私、今日は頑張ったと思うんです。なのでその……
　ご、ご褒美なんかを……」

　甘え慣れてない感全開のななこが、もじもじと上目遣い
に身体を揺らす。

「え？　お、おう。どんと来い」

　その仕草に当てられた純一も、思わずたどたどしい返事
になってしまう。
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「で、何をして欲しいんだ？　お金がかかるものはあまり
　期待するなよ？」

「ふふ、大丈夫です。バスを降りたら、付いてきて欲しい
　ところがあるんです」

　そう言って笑うななこは、何故か『漫画家の眼』をして
いた。
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　初音島に帰り着き、ななこに連れられてやってきたのは
枯れない桜の前だった。

「なあ、ななこ。ここで何をするんだ？」

　花弁を散らし、今はその枝に葉を茂らせる大木を見上げ
ながら、純一は尋ねる。
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「はい。実はですね、朝倉くんに漫画のモデルをお願いし
　ようと思って」

　大木の前でくるりと方向転換したななこの手にはメモ帳
が広げられている。
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「ああ、そういうことか」

「ええ、そういうことです」

　ななこが悪戯っぽく笑ってみせる。
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　恋人同士になる前は結構色々と“資料”としてモデルを
していたが、思えば随分と久しぶりの『モデル業』だ。

「でも、かったるいのはご免だぞ？」

「心配ないですよ、朝倉くん。そんなに難しいのじゃない
　ですから」
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　そう言うと、ななこはメモ帳のページを繰りながら純一
にシチュエーションの説明をしていく。

　なんでも、以前純一がやったモデルのその後らしい。

　紆余曲折あったヒロインと最初の告白をした場所で、も
う一度お互いの気持ちを確かめ合うのだとか。
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「なあ、これ……」

　シチュエーションと、自分の台詞を確認した純一から思
わず言葉が漏れる。

「どうしました？　朝倉くん」

「ホントにこんなこっ恥ずかしいこと言わなきゃダメか？」
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　メモ帳の台詞は、歯の浮くどころか、そのまま飛んでいっ
てしまいそうな程、キザでクサい台詞のオンパレードだっ
た。

「はい、勿論です。それぐらいじゃないと世の女の子たち
　はときめかないんです！」

　力と熱のこもったななこが、言葉とともに迫ってくる。
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「う、うーん……そうはいってもなぁ」

　少女漫画に耐性がないわけではない。

　が、これを声に出すのはちょっと恥ずかしい。
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「……わかりました。いくらモデルさんでも、無理強いは
　できないですもんね」

　ななこはメモ帳を開くと、ある箇所を指さして、純一に
見せる。

「それじゃあ少し短縮して、ここからにしましょう」
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「ここって、クライマックスのところか」

　ななこが指定した部分、それはイベントとして最も盛り
上がる部分『キスシーン』だ。

　前回とは反対に、男子がヒロインに口吻をするというも
のだ。
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「他の部分は補完できますけど、やっぱりここは……」

　唇をなぞりながらそう言うななこは、頬が少し赤らんで
いるように見える。

「わ、わかった。……じゃあ、早速やるか」

「は、はい……」
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　モデルだとわかってはいる。

　しかし、ふたりはまるで付き合いたてのカップルのよう
にぎこちなく正対する。

「ふぅ……」

　大木に背を預けたななこが目を閉じ、呼吸を整えたとこ
ろで“演技”が始まる。
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「朝倉くんは、私のコト……好きかな？」

　胸に手を当て、上目遣いにななこは純一を見つめる。
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「好きだよ、ななこ」

　その視線に応えるように、純一もななこを見つめる。
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「ホントにホント？」

「ああ、この世で一番。色々あったけど、俺はキミを愛し
　てる」
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　一歩前に踏み出た純一がななこをそっと抱きしめる。

　そしてふたりは、キスをした。
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「……もう、いいか？」

「はい……」

　恥ずかしさのあまり、すぐに訊いてしまったが、ななこ
の許可も出たので、純一は一旦体を離す。
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「どうだった？」

「んーっ、悪くはなんですけど……」

　ななこは首を傾げながら、少し考えるような仕草をする。
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「朝倉くん。もう１回、いいですか？」

　そして、申し訳なさそうにななこがテイクツーを要求し
てくる。
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「マジ？」

「ごめんなさい。でも、なにか掴めそうなんです」

　そう言うななこの顔は真剣そのもの。
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「わーったよ。ご褒美だからな、とことん付き合うよ」

　恥ずかしさを紛らわすように、純一は頭をかく。

「ありがとうございます、朝倉くん。それじゃ、はじめま
　しょうか」

　微笑むななこと、純一は再び相対する。
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「朝倉くんは、私のコト……好きかな？」

「好きだよ、ななこ」

ここまではさっきと同じ。
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「――ッ？！」

　しかし、次の台詞を待つはずだった純一の唇は、突然な
なこによって奪われる。

　さっきより深い口吻をした純一の中に、しっかりとなな
このものが広がっていくのを感じる。
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「ホントに、ホント？」

　唇を離したななこが囁くように訊いてくる。

「あ、ああ、この世で、一番……愛してる」
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　惚けてしまった純一は、思わず台詞がトんでしまう。

「うん、これならイケそう！」

　そんな純一を尻目に、ななこはメモ帳にペンを走らせて
いた。
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「そ、そうか。うまくいきそうか？」

「はいっ！　もうバッチリと」

　興奮気味に、ななこが頷く。
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「よかったな、ななこ。でも、顔が真っ赤だぞ？」

「え？　こ、これはですね……朝倉くんとのキスが良かっ
　たから……じゃなくて、シチュエーションがですね！」

　両手をバタバタとしながらななこが慌てる。
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「なんだ、違うのか？」

　そんなななこが面白くて、純一はつい意地悪をしたくな
る。

「い、いえ……良かった、です」
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「うむ、ならよろしい」

　今にも蒸気を吹き出しそうなななこに純一は大仰に頷い
てみせる。

　そんな純一も、顔は赤いのだけれども。
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　それをななこに指摘されるのは恥ずかしいので、純一は
話題を変えることにする。

「で、この後のヒロインたちはうまくいくのか？」

「ええ、勿論です。今まで以上に仲睦まじくなっていくん
　です」
#NEXT

　ペンを走らせる手を止めないまま、ななこは純一に微笑
む。

　そんな仕事熱心なななこを眺めつつ、自分とななこの関
係も、同じようになっていくんだろうな、と思わず笑みが
こぼれてしまう純一だった。
#NEXT

　――Ｆｉｎ
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